高級SCM パッケージ
KはS内部の雑音から離れるために青山のエピック・Sニューメディア部に居候を決め込んだ。
当時のSにはMSX部隊やフイリップスとCDを推進していた部隊があり、いずれもKのプロジェクトを良しと思っていなかった。
「だから、僕にしてみれば雑音から離れるために、青山に来たというのはすごく意味がありました」。
手がけた分野が、SもS・ミュージックも得意ではないゲ-ムであったことも幸いした。
S・ミュージックでゲ-ムを作っていたニューメディア部も事業部にはなっていなかったのも幸いした。
事業部であるならば利益責任が生じ、自由な活動はできなかっただろう。
Kは「あくまでも、自分たちですべてをやるということが成功の条件でした」と言う。
資金があれば技術を買っできたり、アイデアを買っできたりすることができるが、それでは本物の事業にはならない。
まず、自分たちでビジネスモデルを考えて、次に進まななければならない。
決断を他に頼ってはならない。
自分で決断すべきであり、あくまでも自分の判断を信用するのだ。
「最高の仲間を集めてやるから、うまくいくんです。
やりたいと思うことをやることが、気持ちよさに通じます。
気持ちよく仕事をやる中からアイデアがいろいろと浮かんできます」。
これは、任天堂とのプロジェクトに突っ込み、破れ、結局、自力で困難な事業に乗り出すという経過を経ての発言である。
判断を他人に頼ったことが、どれほどの災いを招来したか。
それはアメリカのマーケティングでの、現地スタッフとの数多い札喋の経験からも言えることだ。
「ビジネスは人が作るものです。
最高の仲間とやれるから最高の仕事ができるのです。
あのタイタニックを見てごらんなさい、あんな大きな船でも、小さな氷山を置いておけば沈没する。
それは、タイタニツクが大きいだけに、意の通りに舵が取れないからです」。
仲間と一緒に決断した戦略なら、たとえ何が起ころうと、一時的に調子が悪くても、他に移らない。
たとえば任天堂との破談の後で、セガと提携しようという策には決して走らなかった。
Kは先を読み、方向を定め、なぜKは先見できるのか。
「自信のあるのは技術です。
これは趣味だから、その意味では誰にも負けない」。
技術が趣味とは、商人の息子に生まれ、小さい頃から仕事を手伝っていたKにとって、本職はビジネスマンであり、遊んでいたのが技術だという思いである。
専門は半導体とコンピュータだが、「むしろ専門分野はない方がよい」とも言う。
「専門分野があると、視野が狭まる。
これは危険」。
Kは、自分が納得することでなければ信じない。
そのため、常に勉強している。
学会の論文も読む。
「分野に穴が空くのがイヤなんです。
今は(筆者注。
感情を表わすコンピュータ・テクノロジーと思われるが、中身はまだ明らかにできないとのこと)に興味がある。
新しい分野を勉強するにはまず、その分野を大きく眺めて概観します。
次にディテールに入っていきます。
この順番が大事。
はじめから、一つ一つ、細かいところに拘っていくと、全体が見えない。
メモは取りません。
覚えなくてはならない大事なことは、メモを取らなくても覚えるもの。
それ以外は、忘れるに任せます。
メモなんか書くとストレスが溜まる。
そうして脳裏に刻まれたことが、判断に役に立つんです」。
Kの時代認識はシンプルである。
トレンドは山谷を描くというものだ。
「物事には、必ず変化があります。
それは山と谷を描きます。
例えばSは神話が六年おきに崩壊と再生を繰り返しています。
半導体もそうですし、株も同じですね」。
シナリオを作りそのストーリーを説き、同志を集めていった。
九四年にメモリ価格が高止まりになった時も、TやYは大変心配したが、山谷は必ず繰り返すと見るKは、平然としていた。
パソコンの動向を見て、メモリ価格が低下するタイミングを計っていたのだ。
「山が高ければ、必ず谷も低いのは当然の原理です。
パソコンが流行っている時、将来は必ずパソコン不況になるといったら、本当にそうなりました」。
しかも「赤字は投資だよ」と見ていた。
「資本主義の世の中では、資本を投じた当初は必ず赤字になるものだから、どこでリク-プするかの見極めが大切。
失敗しても結果論として、それがめどになるようにする。
後で振り返ってみて、あれがあったから今日の成功があると思えるようにするんです。
谷が深ければ、山も高いのです」。
八七年頃、Kはシンセサイザーのサウンドに興味があった。
当時、ヤマハDX7やカシオトーンが出てきた。
任天堂が当時手がけていたディスクシステムはFM音源だったが、それよりSのPCM音源のほうが何倍も音が良い。
そこで任天堂にPCM音源を売り込もうと思った。
た。
戦いはFMか、PCMかの様相を帯びて来た。
しかし任天堂はFM音源を一生懸命にやっていた。
PCMはどれほど音が良かったか。
FM音源ではS/Nは450デシベルしかとれない(つまりノイズが多い)。
デシベルも確保できた。
「この音を聴いた人は例外なくびっくりしました。
これがゲ-ムの音かと。
八九年五月に初めて発した音は、記念にDATに録音してありますよ」。
KはFMからPCMへと技術の駒を進めた。
今でこそPCM音源は、当たり前の技術になっているが、当時としては革新的なものだった。
それは「良い音が聴きたい」という個人的なパッションからの発想であり、提案であったが、それは同時に先の展開を可能性を読んだことでもあった。
こんな話もあった。
八五年当時、CCD(電荷結合素子)の開発はコ-ポレ-ト・プロジェクトであり、まずは八ミリビデオに搭載され、勢いに乗っていた。
Kはその頃、マピカ(電子カメラ)の開発を担当していたが、思うところがあり、CCDの開発部隊にこんな注文を出した。
「プログレッシブ(順次に上から走査していく)のCCDを作ってくれませんか…」すると相手は、こいつは何を言っているのかという顔をした。
当時のCCDはやっと立ち上がったばかりの段階であり、動画用のインターレ-ス(一本おきに飛び越して走査)のものを作るのが精一杯で、垂直解像度が二倍のプログレツシブ走査CCDなど、まったく手がけられていなかった。
今、デジタル・スチル・カメラ用のプログレッシブCCDでは、Sは最大手だが、当時は、プログレツシブの発想は、どこにもなかった。
「だって、良い画質で見たいじゃないですか。
良いことを提案するのは、技術者として当然のことですよ」。
プログレッシブ走査CCDは、それから約十年後にデジタル・スチルカメラ用として大ブレイクしている。
世の中は必ずクオリティを重視する方向に行くという思いが、先見のベ-スになるのだ。
Kは先見はするが、しかし、すべてを人に明かすわけではない。
経営者というものは靖疑心が強く、他人の言うことを聞かず、自分の成功体験以外は信用しない。
そんなトップを説得するにはどうすればいいのか。
「全てのシナリオは絶対にしゃべらないことです。
百あったら、まずは二、三しか言わない。
自分には十歩先のイメージがあったら、まず一歩を出してみて、次の二歩目が見える状況を作る。
それが相手にとっては二歩も先が見えるという実績になり信用がついてくる。
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